後立山(長野/富山) 白馬岳(2932.3m)、丸山(2768m)、杓子岳(2812m) 2023年6月17日  カウント:画像読み出し不能

所要時間 0:47 猿倉駐車場−−1:12 長走沢−−1:26 林道終点−−1:45 白馬尻小屋(建物は無い)−−2:14 アイゼン装着(標高1780m) 2:18−−3:10 夏道(標高2210m アイゼン脱ぐ) 3:15−−3:32 小雪渓トラバース(アイゼン装着) 3:36−−4:31 村営頂上宿舎−−4:51 白馬山荘−−5:12 白馬岳 5:29−−5:37 白馬山荘−−5:47 祖母谷方面分岐−−5:55 丸山−−6:13 2600m鞍部−−6:49 杓子岳 7:21−−7:42 2600m鞍部(アイゼン装着) 7:50−−7:58 小雪渓トラバース起点(アイゼン脱ぐ) 8:02−−8:15 大雪渓に乗る(標高2210m アイゼン装着) 8:18−−8:42 白馬尻小屋(アイゼン脱ぐ)−−8:56 林道終点−−9:07 長走沢−−9:24 猿倉駐車場

場所長野県北安曇郡白馬村/富山県下新川郡朝日町
年月日2023年6月17日 日帰り
天候快晴。早朝は冷たい北風強し、その後は風は止む
山行種類残雪期の一般登山
交通手段マイカー
駐車場猿倉に駐車場あり
登山道の有無丸山〜杓子岳鞍部から小雪渓まで以外は登山道あり
籔の有無無し
危険個所の有無まだ雪切されていない小雪渓トラバースが急雪面で滑落注意。特に雪が締まった早朝はピッケル必携。2600m鞍部直下の雪渓も急なので滑落注意
山頂の展望いずれの山頂も晴れれば大展望
GPSトラックログ
(GPX形式)
ここをクリックしてダウンロード
コメントツクモグサを愛でに大雪渓経由で今年2回目の白馬岳へ。ついでに杓子岳も登り、帰りは2600m鞍部から残雪を利用して小雪渓に直接下った。雪解けが進んで葱平から小雪渓の夏道が完全に出ていてミヤマキンポウゲ、シナノキンバイがもう咲いていた。小雪渓のトラバースはまだ雪切されていないので特に下りは要注意。安全を考えるとピッケル必要。避難小屋より上部も雪解けが進んでいるがまだ雪が残った区間があり雪が締まった早朝はまだアイゼンが必要な状況。白馬岳〜杓子岳間の稜線上の登山道はほぼ雪無しでアイゼンは使わなかった。稜線上でも花が徐々に開花しておりツクモグサ、ウルップソウ(開花はまだ僅か)、オヤマノエンドウ、ミヤマキンポウゲ、ハクサンイチゲ、シナノキンバイ、ウラシマツツジ、キバナシャクナゲなど。大雪渓末端付近ではシラネアオイ、オオサクラソウが、白馬尻小屋以下ではニリンソウ、キヌガサソウ、サンカヨウ、ミヤマカラマツ、ズダヤクシュ、オオバミゾホオズキなど。下山時にすれ違った人数は100名近くだったと思う


本州では横岳(八ヶ岳)と白馬岳でしか見られないツクモグサ。祖母谷温泉分岐〜白馬岳山頂の間で見られる。
今がちょうど花の盛りでたくさん見られた(早朝のため花は閉じている)。ウルップソウはまだ芽吹きの段階で2週間後くらいが見頃か?


夜中1時前に出発。さすがにこの時間に出発する人は無し 長走沢。まだ橋が無く暗闇で飛び石探しに苦労
林道終点から登山道へ入る 一時的に雪乗るが50m程で消える
白馬尻小屋。今年もバラしたままで営業無し 白馬尻小屋の先で雪渓に乗る
大雪渓を登り切り標高2210m付近で夏道に乗る 標高2350m付近から小雪渓トラバース開始
予定より下流側でトラバース、避難小屋までさらに登った 避難小屋から夏道歩きでアイゼンを脱いだが早すぎた
県境稜線にもまだ雪が残っている 基本的に無雪区間が長い
たまにある残雪はカチカチに凍ってキックステップが利かない 最後の残雪
水場は現れていたので補給可能 ハクサンイチゲの蕾
ショウジョウバカマ テント場は雪無し
県境稜線着。冷たい北風がやや強い ウルップソウはまだ咲いていなかった
旭岳に朝日が当たる 今年初のオヤマノエンドウ。草と言うより木に近い
ミヤマキンバイ 白馬山荘
白馬山荘の前を通過して東の稜線へ 山荘東側の登山道脇のツクモグサ
振り返る 山頂に人影あり
白馬岳南の肩から見た日光白根周辺。尾瀬の山々は雲の中だった
白馬岳南の肩から見た皇海山周辺。枠からはみ出しているが袈裟丸連峰全体が見えていたはず
南の肩から白馬岳山頂へ 無人の白馬岳山頂。冷たい風で寒い! 逃げ場無し
白馬岳から見た360度パノラマ展望(クリックで拡大)
白馬岳から見た常念山脈、槍穂
白馬岳から見た裏銀座方面
白馬岳から見た立山、剱岳
白馬岳から見た後立山北端部
白馬岳から見た奥秩父
白馬岳から見た八ヶ岳
白馬岳から見た南アルプス(クリックで拡大)
白馬岳から見た白馬尻小屋 白馬岳から見た猿倉駐車場
村営頂上宿舎は荷揚げの真っ最中 次は杓子岳に向かう
丸山への登り 水溜りが凍っていた。予報よりかなり冷え込んだようだ
丸山山頂 丸山山頂のキバナシャクナゲ
丸山から見た360度パノラマ展望(クリックで拡大)
もったいないが杓子岳へと下る ここにもオヤマノエンドウ
コメバツガザクラかと思ったらウラシマツツジの花だった シナノキンバイ
白馬大雪渓を見下ろす 杓子岳が高くなっていく
最も開花が進んだウルップソウの株 開花したハクサンイチゲ
2600m鞍部からの登り返し 最後の登りは崩れやすい砂利の積み重なり
鑓ヶ岳への巻き道もほとんど雪は消えているようだ
カールの下に避難小屋が見えた 山頂手前で無人カメラ発見
山頂直下 杓子岳山頂
山頂部は鑓ヶ岳方面へと長く延びている 杓子尾根。かなり悪そうに見えるがそうでもないらしい
杓子岳から見た360度パノラマ展望(クリックで拡大)
杓子岳から見た富山新港火力発電所 下山開始
砂利の重なった道は積雪に似て膝に優しい 2600m鞍部から続く雪渓を下る予定
杓子岳を振り返る 鞍部の向こうには白馬岳
白馬三山日帰り周回中の若者 2600m鞍部で雪渓に乗って直接小雪渓を目指す
出出しは結構な傾斜を左へトラバース気味に下った 下ってきたルート
画面左が小雪渓。トラバース中の人の姿が見える まっすぐ下ってきた
小雪渓トラバース中の登山者 中央が夏道終点
夏道終点から見た下ってきたルート 小雪渓トラバースにかかる登山者
アイゼンを脱いで夏道を下る。雪が無いと暑い! 続々と上がってくる
ヤマガラシ シナノキンバイ
ウメハタザオ。グーグルの画像検索凄すぎ! ミヤマキンバイ
ミヤマキンポウゲ 夏道末端が見えてきた
夏道末端手前の岩 今の夏道末端。ここで大雪渓に乗る
大雪渓に乗る。雪の上は涼しい! 続々と登ってくる
振り返る。青空と雪のコントラストが素晴らしい 標高1850m付近。ノドの直下
下ってきたルート。右上は白馬岳へ 標高1650m付近
オオサクラソウ。高い位置にあり望遠で撮影 シラネアオイ。まだたくさん咲いていた
もうすぐ白馬尻 白馬尻到着
白馬尻から見た大雪渓 白馬尻でアイゼン装着して大雪渓に乗っている
畳んだままの白馬尻小屋の資材 白馬尻直下は雪無し
標高1520m付近のみ残雪あり ニリンソウ
登山道脇のシラネアオイはこれだけだった サンカヨウ
ミヤマカラマツ。咲き始めたばかり キヌガサソウ
オオバミゾホオズキ ズダヤクシュ
タニウツギ 林道終点
唯一見かけたスキーヤー ノビネチドリ
トラックが上がっていった。白馬尻小屋の作業だろう 長走沢。明るい時間は渡渉点が簡単に分かる
ぱっと見で花の形状はミヤマクワガタに似ていると直感。
調査の結果、テングクワガタ。コテングクワガタに毛は無い
ショートカット道
ミヤマキンポウゲと同類のウマノアシガタ 花びら同士が重なっておらず隙間があるのが特徴だが全部がそうでもない
ニョイスミレかなぁ。でも花が大きいしこんなに遅い時期に咲いてるか? 猿倉駐車場。まだ満車ではなかった


 今週末は珍しく最初から行先が決まっていた。白馬岳である。理由は簡単でツクモグサが開花したからである。ツクモグサは本州では白馬岳と八ヶ岳の横岳でしか見られない珍しい花で、開花時期は梅雨の早い時期なので夏山シーズン開幕以降ではほぼ目にすることはない。1週間前の時点でツクモグサ開花の情報が入っていたので、今週末はたくさん見られると期待した。ついでにウルップソウにも期待。この花も本州で見られるのは白馬岳周辺と八ヶ岳の2か所だけと言う変わり種。花を見るのが目的なので天気はどうでもいいが、運よく今週末は土日に渡って安定して晴れの予報であった。なお、今年に入って白馬岳は2回目であり約1ヵ月前に登っており、当然ながらその時よりは雪は大幅に減っているはずで、おそらく葱平の夏道が出ているだろう。

 金曜夜の猿倉駐車場はまだガラガラ。白馬尻へと通じる林道入口に一番近く、日中でも木陰になる絶好のポジションを確保して酒を飲んで寝た。さすがに先週の扇沢よりは夜間の車の入りは多かったが、それでも私が出発するときには駐車場はまだがら空きだったし他に行動開始する登山者はいなかった。遠方からやってくる車だろう、夜中1時でも上がってくる車があった。こちらは午前1時前に出発。山頂着は午前5時過ぎの予定で日の出直になるはずだ。満天の星空であった。

 今回の冬装備は10本爪アイゼンに軽ピッケル。雪が締まった早朝の小雪渓のトラバースにはまだこれくらいの装備が必要だろうとの判断であるが、結果的にこれは正解であった。雪が緩んだ日中ならここまでの装備は不要かもしれない。

 長走沢の雪は完全に消えていたがはだ橋が架かっておらず、雪解け水で流れが増しているので飛び石で渡る必要があるが、真っ暗でLEDライトで照らせるのは狭い範囲なので適度な飛び石が判別できなかったがどうにか渡渉。昼間の下山時には簡単に最適な飛び石を見分けることができた。

 林道終点から登山道に入るが前回雪があった場所にも雪は無し。最後の沢を渡った先に50mくらい雪が残っていたがその先は再び雪が消えて白馬尻まで夏道を歩いた。白馬尻小屋は今年も営業しないと告知されているだけあって建物は畳まれたままだった。

 白馬尻小屋前から雪渓に乗ることができたが、まだ夏道が出ていたのでそちらを登ってみたが100m程で雪渓に吸い込まれた。雪は固く締まって滑りやすいが最初は傾斜が緩いのでノーアイゼンで登っていく。雪の表面はスプーンカット化し始めており、帰りに滑りながら下るのは難しいかもしれない。標高1800m手前で傾斜がやや出てきてスリップが多くなったのでアイゼン装着。これで足の置き場に気を遣う必要が無くなったし、滑らないよう足の妙な筋肉に力を入れる必要もなくなったので楽になった。

 雪渓歩きは真っ暗闇の中なのでLEDライトの光が頼りだが、大雪渓は幅が広いので端まで光が届かずどの辺りを歩いているのか全く分からない。いつのまにか右や左に傾斜が出てきて端に寄り過ぎだと気付いて逆向きに斜めに上がっていくと今度は逆方向に行き過ぎたり。狭い光の範囲ではそもそも真ん中辺にいるかどうかが非常に分かりにくく、右を見ると右に寄り過ぎているように見えても左を見ると左に寄り過ぎているように見えたり。こんな場合は真ん中付近だろうと直進した。概ね、雪渓を吹き降りる冷たい風が弱まらなければ真ん中付近と思っていいだろう。

 時々後ろを振り返って他に登山者の光が見えないか確認したが最後まで全く見えなかったので、おそらく私の次に登ってくるであろう登山者とは1時間以上は時間差があると思う。

 大雪渓上端部で葱平が近付くと傾斜が急になり雪渓の幅が狭まるのでルート判断がぐっと簡単になり、島のように雪が無い尾根が付き出した右側に到着すると「島」の上に夏道のマークを発見。ここが葱平入口で小雪渓直下まで夏道が出ているはずなのでアイゼンを脱いだ。まだ周囲は真っ暗な時間なので遠い上部の様子は見えないが、大雪渓の続きは既に流れが出てしまっており、ここから先は夏道を登るか夏道の右側に続く傾斜が急な雪渓を登るかの二択である。雪渓がどれだけ急かは良く分かっているので迷わず夏道を選択。

 雪が消えた夏道には早くも夏の花が咲き始めていた。一番多いのはミヤマキンポウゲでシナノキンバイも咲いている株があったが、ハクサンイチゲはまだ蕾。下山時には初めて見るウメハタザオの花も咲いていた。

 大岩の直下で夏道が雪に埋もれて一面の雪面になった場所が小雪渓入口で、予想外にトレースは残っていなかった。まあ、斜めに上がれば大丈夫だろうとアイゼンを装着して軽ピッケルを持ってトラバース開始。結構な傾斜であるし夜明け前の雪が固く締まった時間帯なので滑落しないよう一歩一歩慎重に足を出す。こんな時にピッケルが心強いが、この雪質では滑ったら止まりそうにないのでピッケルは滑落停止の意味ではなく滑落抑止の意味合いが強い。

 雪の斜面は傾斜が急で、その上は再び傾斜が緩くなっているので上部の様子は見ることができず、目標となる避難小屋の位置は分からないので適当に上がっていくと対岸に到着して傾斜が緩んだが、どうもいつもと様子が違って避難小屋とその裏にある巨岩が見当たらない。上流方向へ雪の斜面を上がっていくと左側に無雪地帯が登場し、そこに避難小屋があった。ということでいつものルートよりかなり下流で小雪渓を横断したことが判明したが、雪が連続しているので特に問題は無かった。雪が締まって私のトレースは残らなかったはずなので、まだ見えない後続部隊を変なルートに引き込むことも無いだろう。

 無雪地帯に達して夏道に乗るとアイゼンを脱ぐ。過去の経験ではこの先はもうアイゼンはいらないはずである・・・と思ったら200mくらい夏道を歩いたら再び雪が登場。雪はカチカチに固まってツルツルでアイゼン無しではとても歩ける状態ではなく、雪が無い場所を迂回しようにもそこは灌木藪。でもどうせ2,300mで雪が消えてアイゼンを脱ぐことになるはずなので、藪と雪の境界を進んだり灌木藪に突っ込んだりとどうにか雪を避けて通過したが、素直にアイゼンを履いた方が楽だったような。避難小屋に達しても西側は雪が続いているのでアイゼンを履いたままそこを歩くのが正解だった。この頃には明るくなってライト不要になった。

 避難小屋以降で出てきた最初の長い残雪が終わって以降は2箇所の短い残雪があったが、先人の足跡の窪みのおかげでツルツル滑りながらもどうにかアイゼン無しで通過することができた。気温と日差しで雪が緩む日中ならアイゼンは不要だろう。予報では標高3000mの気温は+6℃となっていたが、雪の状態を見る限りはどうもそれより気温が下がっているようだ。

 避難小屋〜村営頂上宿舎は無雪期はお花畑になるが、まだその時期には早いようでミヤマキンバイがちらほら咲いているが、基本的にはまだ緑は少なくて生えているものでもまだ蕾だったり。花が楽しめるようになるのは来週以降だろう。ライト不要になったとはいえ往路はまだ日の出前でデジカメで撮影するにもシャッター速度が相当遅くてブレた写真になるのは確実なので撮影は帰りがけにすることに。しかし実際には帰りにここを通ることは無かったのであった。

 今回はあちこちで水が得られるだろうとペットボトルは空っぽの状態で上がってきたので水補給が必要。村営頂上宿舎前の雪渓から流れ出る水源はまだ雪に埋もれているかと思ったらもう使えるくらいまで雪渓が後退していた。

 村営頂上宿舎の窓には明かりが見えていて人が入っていることが分かったが、まだ大半の出入口や窓は雪囲いの板で塞がれたままなので今年の営業は始まっていないようだ。帰ってからネットで調べたら来週土曜日から営業開始とのことであった。なお、この日はヘリによる村営頂上宿舎への荷揚げが盛んに行われており10往復以上はしていた。まだ営業開始前なので下界へ下すゴミが無いので帰りのへりは空荷であった。

 県境稜線に出ると冷たい北寄りの風がやや強くなり寒さを感じるようになったので防寒装備を着用。手袋は防寒防水タイプなので風があっても問題なし。北風なので乾燥した空気に入っているようで空気の透明度は良好で、東の空には日光白根の姿が見えていた。日の出を迎えたようで西側の旭岳が赤く染まっているが、太陽は白馬岳の稜線の影になってここからでは見えない。ここからだと東の空は開けているのに太陽が見えないのは、もう夏至が近いので太陽はかなり北から上がってくるからだろう。

 ここからが目的のツクモグサが見られる場所であり、登山道の両側をキョロキョロしながら上がっていく。まだ緑はほとんど見られず花があれば簡単に分かる状態。最初に発見したのはミヤマキンバイで、数少ない緑色の葉を広げているのはウルップソウだが、まだ芽吹いたばかりの様で花芽のままだった。濃い紫色の花はオヤマノエンドウで、こいつも梅雨の時期に花を咲かせるので真夏には見られない花である。私が良く登る山の中では白馬岳でしか見たことが無い。

 そして待望のツクモグサ発見! 柔らかそうな毛に包まれたクリーム色の花で、地面から低い位置に咲いているし葉も小さいので目立たない存在である。大群落を形成するようなことはなくあちらこちらにポツリポツリと点在している。どの花も閉じているが、どうやらミヤマリンドウと同じように日中しか花が開かないようだ。それでも姿を拝めただけでうれしい。何せ本州で見られるのはここと八ヶ岳しかないのだから。八ヶ岳ならもうこの時期は雪は無いので白馬岳よりも簡単に登れるし、首都圏からの距離も近いのでツクモグサを見るなら八ヶ岳の方が便利で安全である。

 ツクモグサを愛でながら白馬山荘に到着。夏山シーズンと違って小屋の周辺には人影はなし。猿倉駐車所の駐車状況からして小屋泊まりの人は10〜20人程度いても不思議ではないが、まだ日の出直後だし寒いので外に出ていないのかもしれない。

 いつもの通り往路は縦走路ではなく山荘東側の登山道で稜線を上がることに。縦走路より東側の山荘建物前を通過。真夏にはここにも高山植物が花を咲かせるが今はまだ無い。平地が終わって階段を上がるところで下ってくる人とすれ違う。稜線で日の出を見た宿泊者だろう。階段脇にはすぐ近くにツクモグサが花を付けていて写真撮影にちょうどいい。他にはミヤマキンバイが見られた。山頂の一角である南の肩には一人の姿あり。これも山荘の宿泊者だろう。

 東の空は良く晴れていて志賀高原の山々がすっきりと見えていたが、その奥、通常なら尾瀬の山々から越後三山が見える辺りは雲がかかって遠い山並みは見えないが、岩菅山周辺は遠くまで雲がかからず日光白根周辺と皇海山周辺が見えていた。思い起こせば奥日光の山々は鹿島槍以南では何度も見ているが、白馬岳から見た記憶がない。志賀高原北部の山に雲がかかりやすいのだろうか。

 縦走路に合流して短い登りで白馬岳山頂一角の南の肩に到着し、南半分の写真撮影。北半分は三角点のある山頂=北の肩で撮影。山頂部では北寄りの非常に冷たい風が吹き付けて体感的には極寒状態。この方向の風は山頂部では避ける岩陰が無く吹きっ晒しであり、防寒着を着てもあまりに寒くて短時間の休憩で下山せざるを得なかった。私が滞在した間に他の登山者は皆無だった。北寄りの風=乾いた風なので空気の透明度は良好で、南アルプスは深南部まで見えていた。奥秩父も広範囲に見えており、現場では同定できなかったが写真で確認したら少なくとも和名倉山までは見えていた。おそらくその左側に雲取山が見えていただろう。白馬岳でここまで見えたのは初めてだ。

 寒さに耐えられず下山を開始したが、このまま下ると下山時刻が早すぎてもったいないので寄り道することに。前回は旭岳に寄ったので今回は杓子岳を目指すことにした。前回杓子岳に登ったのは何年前なのか忘れてしまったが、コロナ禍前に違いない。旭岳より遠くて面倒だが、うまくすれば帰りは丸山〜杓子岳間鞍部から小雪渓に直接下れるかもしれない。雪がつながっているかどうかは途中から見えるだろう。このルートなら帰りに小雪渓のトラバースが不要になるので安全性が高いメリットもある。

 まずは丸山への登り返し。祖母谷温泉方面分岐より南側にはどういうわけかツクモグサは一切見られず、ここまで分布がはっきり分かれている植物も珍しい。無人の丸山山頂でパノラマ写真撮影。山頂ではキバナシャクナゲが咲いていた。そういえば白馬岳への登りの途中には石楠花は全く見られないなぁ。登山道にあった小さな水たまりには氷が張っていて、気温は0℃近くまで下がっているのは確実だ。

 丸山から下ると短い距離だが残雪があり、まだツルツルに固まっているので雪の上を避けて迂回。南斜面で日当たりがいいからだろうか、オヤマノエンドウやミヤマキンバイがあちらこちらに咲いていた。コメバツガザクラに似た先端が閉じた白い鐘状の花があったが、葉はまだ出ておらず昨年の枯れた葉の残骸が残ったままで何の花か分からなかったが、グーグルの画像検索でウラシマツツジであることが一発で分かった。今年はもう何度も同じこと書いているが、本当に最近の画像検索の精度は驚くべきレベルだ。稜線の東側にはハクサンイチゲやシナノキンバイがもう花を咲かせてた。

 鞍部へと下っていく斜面の左側には雪が付いているが、尾根直下の傾斜が急らしく尾根近くの様子は隠れて見えず、雪が小雪渓まで繋がっているのか分からない。でも往路で小雪渓から県境稜線を見上げた時にはまだ雪がつながった場所が多かったので大丈夫かな。ただし肝心の最低鞍部で雪がつながっているかは分からなかった。

 2600m鞍部から杓子岳まで標高差約200mの登り返しである。北向きの斜面には地面を這うキバナシャクナゲが花を咲かせていたが、その背丈は地面を這う草のようであり蕾はぱっと見ではツクモグサに見えるほど。キバナシャクナゲの蕾は色合い、形ともツクモグサの閉じた花にそっくりであった。

 いったん傾斜が緩むと砂利が積み重なった道に変わり。杓子岳山頂へと上へ向かう道と鑓ヶ岳へと向かう巻き道に分岐する。巻き道の残雪は僅かでもうアイゼンは不要そうに見えた。杓子岳山頂への道は全く雪は見られない。

 大きめの石の砂利が積み重なった急な尾根をジグザグに登っていくのは記憶の通り。北を見下ろすと2600m鞍部から小雪渓にかけての雪の状態が丸見えで、幸いにして雪は繋がっているようだ。これで帰りは最低鞍部から小雪渓へとダイレクトに下ることが可能で、夏道経由よりも大幅にショートカットが可能だ。こんなことができるのも雪が残っている間だけであるから今年はこれが最後かな。

 山頂直下の登山道左側に黒いい物体を発見。誰かの落とし物かと思ったら野生生物撮影用の無人カメラだった。こんな植物がほとんど無い場所で映り込む動物がいるのか不思議である。

 カメラからほどなく杓子岳山頂に到着。山頂部は遠くから見て分かるように南北に細長く、地形図では標高点が打たれている北端ピークが山頂である。以前は山頂標識は無かったように記憶しているが、後立山でよく目にする形式の山頂標柱が立っていた。山頂には地を這うハイマツ以外に木は無いので展望を遮るものは無いが、南は鑓ヶ岳が、北は清水岳〜白馬岳〜乗鞍岳がブロックして遠くの山々は隠れてしまっている。ここの標高は約2800mもあるが白馬岳や槍ヶ岳は2900mもあるので仕方ない。毛勝三山の右側には富山平野の市街地が見えており、デジカメのズーム最大で覗くと何やら巨大工場のような建物を発見したので撮影。下山後に確認すると海岸沿いにある巨大煙突を持つ建物で、いかにも火力発電所らしい姿だったのでネットで検索して写真と比較したところ、建物と煙突の形状から富山新港火力発電所に間違いなかった。

 白馬岳山頂では冷たい風が強くて風が避けられる場所も無くてほとんど休憩せずに退散したが、今は風は少し弱まり日差しがあって風除けになる場所もあったので気持ちよく休憩できた。夏山シーズンなら白馬三山縦走者も多いので杓子岳に登ってくる登山者もそれなりにいるはずだが、この時期は白馬岳に登る登山者は多くても杓子岳や鑓ヶ岳に足を延ばす人はほとんどいない。鑓温泉へのルートは半端な残雪で非常に歩きにくいのが主要因だろう。休憩中にやってきた人は誰もいなかった。

 飯を食って休憩を終えて下山開始。登りでは足元が不安定で疲れる砂利道も、下りは雪の上を歩くのと同じように砂利が崩れることで膝への衝撃を吸収してくれるので疲れにくい。最低鞍部間近まで下ると丸山方面から下ってくる人影を発見。その姿から祖母谷温泉分岐付近ですれ違ったトレランに近い軽装の男性に違いなかった。ザックは小さいしピッケルは持っていそうになかったが、あれで大雪渓を上がってきたはずだから雪の経験があるのだろう。それにこちらに向かってくるということは日帰り白馬三山周回のはずであり、かなりの健脚だろう。こちらが先に鞍部に到着して着替えとアイゼン装着の準備をしていると快速で通過していった。

 2600m鞍部から県境稜線を離れて下ればもう風の吹き曝しはなくなり、予報通り気温はぐんぐん上昇して暑くなるのは必至なので、ここで今年初の半ズボンに履き替える。人がいない場所だからこそ着替えが可能。半ズボンにロングスパッツは違和感があるが、靴の中に雪が入らないようにするためには必要だ。雪の照り返しで顔の日焼け必至なので日焼け止めを塗り、毛糸の帽子から麦わら帽子に替えた。

 鞍部からは目の前の平らな残雪で邪魔されて小雪渓までのルートは全く見えず、雪の上に乗って急な下りが始まる肩に立ってやっと先が見えるが、まだ傾斜が途中で変わるようで小雪渓が見えない。ただしまっすぐ下ると途中で雪が途切れてしまうのは分かったので左に大きくトラバースする必要がある。雪壁に近いかなりの急雪面を下りでトラバースするのは厄介で、左手にピッケルを持って確保しながら慎重に足を進める。日差しのおかげで早朝のガチガチだった雪が少し緩んで多少は安心して歩けるくらいにはなっていた。ガチガチのままだったらトラバースができないでバックでまっすぐ下るしかなかっただろう。往路の小雪渓のトラバースとここでのトラバースを合わせて左手のピッケルを持った腕にかなり力を入れたので翌日は左腕が筋肉痛になった。なお、左膝の怪我がある程度回復して以降は運動不足解消のために筋トレで腕立て伏せを平日は120回ほどやっているが、これで鍛えられる筋肉とピッケルで体重を支える時に使う筋肉は違うようである。なお、藪漕ぎで使う筋肉は腕立て伏せで使う筋肉と同じらしく、2週間前の爺ヶ岳での激藪漕ぎでは腕の筋肉痛は出なかった。

 雪の斜面中に島のように地面が出たエリアの左を巻いてからはほぼ真下に小雪渓右岸の夏道終点が見えたのでまっすぐに下る。そこそこ傾斜があるが先ほどよりは緩いので前を向いたまままっすぐ下っていく。でも振り返るとかなりの斜度であり好んで登りたくなるような場所ではなかった。やがて小雪渓をトラバース気味に上がっていく登山者の姿が見えるようになり、夏道終点にも人の姿が。

 夏道終点に到着してアイゼンを脱ぐ。入れ替わりでこれから小雪渓トラバースへ向かう2名の登山者が上がっていく。抜けるような真っ青な空に雪面の白が写真映えする。葱平の急な夏道では数人の登山者とすれ違う。雪渓上と違って地面が出た場所は暑い! 麦わら帽子を持ってきて正解だった。これでも暑いので首には濡れタオルを巻いて片手には風冷用の扇。今の時代ならUSB充電方式の小型ファンが適切かもしれないが、濡れタオルは電池切れが無いし軽いのがいい。ただし水が切れて乾燥すると冷却効果が無くなるので補給用の水が必須である。ただし電気と違って水は使えば無くなって軽くなるのがいい。

 無雪区間は花を探しながら+花の写真撮影をしながらなので通常よりスローペースになったのは仕方なかろう。これからの季節はどんどん花が増えてくるのでもっと所要時間が延びるに違いない。

 往路と同じく標高2210m付近で夏道から大雪渓に乗り移るためにアイゼン装着。大雪渓を登り終えてここから夏道に乗る人にはしばらく雪が無いのでアイゼンを脱いで登るようにアドバイス。ついでにこの夏道が雪に消えたら小雪渓のトラバースだと伝えておく。今は日が高く雪が緩んでトレースがたくさん付いているので間違えることは無いだろうけど。ただ、私が付けた2600m鞍部へのトレースに引き込まれる人がいないかちょっと心配。

 大雪渓はそれほど傾斜は無くピッケルの出番はもうないのでザックに括り付けてから大雪渓に乗ってアイゼンを効かせて快速で下る。一ヶ月前は帰りはいい感じの雪質でアイゼン無しで適度に滑るくらいだったが、季節が進んで雪はその時と比較して雪は固めとなっており、アイゼン無しでは滑り過ぎるので今回は最後までアイゼン着用のままだった。

 さすがに大雪渓上はすれ違う人が多い。中には歩き方がいかにも雪に不慣れな登山者も。あれで小雪渓の急雪面を安全に下れるのか心配になる。それとも帰りは栂池のロープウェイ経由かな。

 標高1700m付近の谷幅が広がって左岸の斜度が緩くなる付近から左岸に花が無いか探しながら下った。私以外の登山者は広い雪渓の中央付近を歩いているので私だけポツンと端っこにいて目立ったかも。岸に咲く花は雪渓中央部からでは遠すぎて全く判別不可能であり、花に気付く人は皆無だろう。1ヵ月前は満開状態で大群落を形成していたニリンソウは影も形も無かったが、前回も見たシラネアオイとオオサクラソウはまだあちこちに咲いていた。おそらく前回よりも標高が低いところに移行しているのだろうが、岸の地形は似たような光景が続くので1ヵ月前に見た場所と違うのかは分からない。

 やがて白馬尻が見えてきて花が咲く左岸を離れて右岸の白馬尻へ。大きな建物は畳んだままだがその裏手にあるやや小ぶりの入口が塞がれたままの建物がトイレだろうか。「営業開始」は7月に入ってからかな。白馬尻ではこれから雪渓登りを始める複数の登山者がアイゼンを装着している姿を横にこちらはアイゼンを脱ぐ。今から登ると雪渓上は冷たい風が吹き降りてくるのでまだいいが、葱平の夏道はクソ暑いに違いない。夜間登山ばかりで寒さには慣れているが気温が上がるお昼前には下山してしまう今の私では我慢の限界を超えてしまうだろう。

 白馬尻以降はごく一部を除いて無雪が続くのでアイゼンは不要。ここまで下ると1ヵ月前は雪の下だった登山道脇にはたくさんのニリンソウがまだ咲いていた。ここではシラネアオイを見たことがあるが、今回は一輪だけだった。ニリンソウと良く一緒に見られるのがキヌガサソウにサンカヨウ。サンカヨウはもう終盤であった。それに代わってズダヤクシュ、ミヤマカラマツ、オオバミゾホオズキ、タニウツギが花盛りだった。

 林道に出ると道端には背の低い小さな青い花がたくさん咲いていた。近付いてよ〜く見ると初めて見る花だが花の形、模様は明らかにミヤマクワガタ似であるので「**クワガタ」の名称と予想。グーグルの画像検索で有力候補としてテングクワガタとコテングクワガタの2種が挙がったが、その後のネット調査で細かな特徴の差を調べた結果、テングクワガタと判明した(茎に毛があるのが決め手)。林道脇ではこの他にノビネチドリ、タネツケバナ、オオバミゾホオズキ、ウマノアシガタ、ニョイスミレ似の種類不明のスミレが見られた。

 ウマノアシガタはミヤマキンポウゲ似の花であるが、ネットの解説ではミヤマキンポウゲは花びらが重なって隙間が無いのに対してウマノアシガタは花びら同士の間に隙間があるとのこと。今回見たのはこの通りであったが、扇沢で見たのは花びらが重なっていた。しかし森林限界から遥か下の標高1500mで残雪は早くに消えてしまう場所でミヤマキンポウゲが生えているとは考えにくいのでウマノアシガタが妥当だと思う。植物にも個性があるので花びらの間隔だけでは見分けるのが難しいのかもしれない。

 ニョイスミレ似のスミレは花の形、色合い、模様はニョイスミレと同じだが花の大きさが大きかった。ニョイスミレは普通に歩きながら発見してもスミレの花の形をしているのか見分けられないくらいのサイズ感だが、今回見たのはタチツボスミレがちょっと小さくなったくらいのサイズ感。托葉は櫛の歯状に裂けていないのはニョイスミレと同じ。スミレは同定が非常に難しく、専門の書籍を入手しないといつまで経っても知識レベルが向上しないなぁ。

 駐車場に到着。夏山シーズンなら好天の土曜日中は満車で少し下った駐車場どころか県道をはるか下まで下って水力発電所がある二股駐車場まで使われる羽目になるのだが、残雪期と夏山の端境期の今はまだ空きがあった。想定通り私が駐車した場所は日陰で車内は涼しいまま。車内で着替えているとこれから出発する姿も見られたが、さすがに日帰りとは考えにくく、山荘着は午後3時前後になるだろう。明日も好天予報なので大展望を楽しめるだろう。

 

山域別2000m峰リスト

 

ホームページトップ